夜灯 小説 Novel
「今夜は月がきれいですね」

「ほおつきよ」本編後。夜一をちょっぴり翻弄する真昼をかわいいかわいいする余裕がない夜一の小話。

「今夜は月がきれいですね」

　真昼からロマンチックな言葉が流れるようにこぼれ出てきたから、俺はうっかり聞き逃すところだった。

「なんて、夜一さんが言いそうな言葉」

　「真似してみました」なんて背を向けながら、さらっとかわいいことを言う。いったいどう返したらいいか、一瞬のうちに馬鹿みたいに考えまくった俺の気持ちをどうしてくれるんだ。

　「言わないよ、だって、俺」と窓際に立つ真昼の腕を絡め捕って、引き寄せる。月光浴ばかりしていて、こっちを見てくれない真昼にいい加減、構ってほしさと触れたい欲が爆発しそうだったのだ。

「上品に夜のお誘いだって、できないし」

　少しばかり夜を覚えて背伸びしてみせた恋人。せっかくの遊びを楽しむ余裕なく俺は、月明かりなんて差さない、深い夜へと無粋に引きずり込んだ。


ほおつきよ 自主お題創作「今夜は月がきれいですね」

著者：兎守 優（旧：内山）
公開日：2022年10月8日

この物語はフィクションです。
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