夜灯 小説 Novel
離れがたきぬくもりを抱きしめて

BLメイン、ダークファンタジー・シリアス・R18作品があります。


「ほおつきよ」本編後。夜ーと真昼が初めて冬を迎える話。となりの彼を意識して、真昼のバクバクが止まらない。

離れがたきぬくもりを抱きしめて

 同居して初めての冬。一人で寝るには大きすぎるセミダブルサイズのベッドの上で、僕は寝ていた。そわそわして落ち着かないのは、本来なら二人でぎゅうぎゅうなベッドが広く感じるせいじゃない。大好きな相手──夜一さんがとなりで横になっているからだ。しかも、かなりの至近距離で。
 彼の近い距離感には少々慣れたつもりだったが、このベッドの上でしていることを思うと、それはそれは赤面もので、心臓のバクバクが止まらなかった。ベッドがきしむと身構えてしまう。彼が何をしてくるのか、どう反応していいのか、分からないことだらけで、頭がいっぱいになる。
「真昼」
 ささやくような低い声で僕の名前を彼は呼んだ。耳がカーッと熱くなる。腕が伸びてきて、彼のたくましい腕の中に抱かれた。僕は大して鍛えてもいなくて、体がひょろっちいので軽々と引き寄せられて、腕の中に閉じ込められてしまう。
 ぴとりと背中についたのは彼の上下する胸。呼吸音と吐息。髪に口付けを落とす仕草。夜のお誘いなら、誰もが一発で落ちるほど彼のすべては魅力的なのだ。
「腕、しびれちゃいますよ」
 逸る鼓動と赤面しているのを悟られたくなくて、至極まっとうなことを口にしてみる。クスクスと笑う声がして、心がさらにかき乱された。
「いーよ。幸せな痛みじゃん」
 そうやってグズグズに甘やかして、愛を降らせてくる彼は本当にズルい。与えられるぬくもりが当たり前になって、一人で眠れなくなってしまうじゃないか。
 そう考えて、ふと思い至る。夜一さんの家で一緒に暮らし始めてから、一人になることなんて、そうそうなかったと。でも仮に夜一さんが出張に行ってしまったら、その間、僕は一人になる。彼がいない家を思うと、胸がギュッと締め付けられた。
「眠れない?」
 見透かされたようでドキリとした。後ろにいるのに、どこから見ているのだろうか。
「寒くてなかなか」
 寝つけるわけがない。頭に浮かんだ、あーでもない、こーでもないことが巡って、眠気を邪魔しているからだ。極論、全部、夜一さんのせいなのだが。
「じゃあ、こっち」
 ぐるんと体を反転させられる。ばっちり夜一さんと目が合った。もう僕が降参して目を逸らしそうになる頃、抱き込むように胸元に引き寄せられる。
 夏はほどよく冷たくて、冬は意外と高い彼の体温。変温動物みたいに僕の体温に馴染んでくる。急に微睡みが下りてきた。
 ゆりかごのように、心地よいベッドの中で、眠りに落ちる一歩手前。幸せな温度を噛みしめた。

あとがき

 本編がシリアスになりがちな、内山 優です。『ほおつきよ』に出てくるカプを書きましたが、この二人、実はまだ一緒に冬を迎えたことがなかったのですが、本編後の二人を妄想して、無理やり迎えさせました。
 夜一さんはワケありの危ないオニイサン枠なので、心に決めた人を絶対離さない執着深さはある意味怖いくらいです。愛を惜しみなく与える、相手がパンクするぐらいいっぱい。でも、相手の真昼は幸せな愛が足りなかった子なので、いっぱいもらえてうれしいから、どっちもどっちかも。
 ということで、この度はここまでお読みいただき、ありがとうございました。アンソロを企画してくださった、一次BL創作オンリー【冬展】の主催様にも感謝いたします。


ほおつきよ  本編その後ss「離れがたきぬくもりを抱きしめて」

著者:兎守 優(旧:内山)
公開日:2021年12月11日

この物語はフィクションです。
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書誌帖

サイト名:夜灯
管理者:兎守 優(旧:内山)
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