BLメイン、ダークファンタジー・シリアス・R18作品があります。
一人暮らしが板についていたのに、今ではすっかり馴染んでしまった、同居生活。彼の家のソファーで僕はうずくまってうなる。 「どうしよう……」 なんでこんなことしようと思ったのか、僕はとっても後悔している。僕の悩みの種は、プレゼント。 夜一さんにもらってばかりなので、何かあげたいと思ったはいいものの、どういう理由で、いつ、何を渡せばいいのか、全く思い浮かばなかった。 そもそも、どこで何を買うのかさえも分からないなんて、ノープランもいいところだった。 プレゼントにいい思い出がないせいもあるんだろう。お父さんもお母さんも生活や病のことでいっぱいいっぱいで、形として残るものはおろか、誕生日を祝ってもらった記憶すらなかった。 「う、うぅ……」 やっぱりまだ両親のことを思い出すには、向き合う覚悟が足りなかった。 藤岡家に引き取られた後、僕が誕生日を祝ってもらったときに、大泣きしてしまったので、それ以降はタブーになってしまっていたので、お祝い事と贈り物にはめっぽう疎い。 だって、僕が心の底から人生を喜べることなんて、ないのだから。僕が生まれたせいで、お母さんは苦しんだ。お父さんも僕がいなければ苦労しないで済んだし、お母さんと幸せに暮らせて、二人とも一緒にいられたのに。 僕の心の傷はまだまだ癒えない。過去のトラウマが噴き出すと、延々と泣いてしまう。 「なーに、ひとりで泣いてんの」 足音もなく、彼は帰ってきていた。僕の耳に差し障りがないように、静かに帰宅する術を身に付けたらしい。 ソファーのそばまで来て、僕を抱きしめてくれる。温かくて安心する体温と彼の匂い。心の中で土砂降りの雨が、小降りになる心地だった。 ぜんぶ、彼が僕に注いでくれる愛の形。僕は彼に何か返したい。そう思ってしまうのは必然だった。僕だって、彼を拙くも愛しているから。 「夜一さん、何がほしい……ですか」 「真昼……ってどうしたの、いきなり」 悲しくてしおしおしていた顔から火が出そうになった。そうやって、スパッと言われてしまうものだから、こっちがかえって恥じらってしまうのだ。 「顔赤いんだけど、もしや熱あるんじゃ……」 「泣いたから、ですっ」 鼻水をすすると、すかさずティッシュを差し出してくれる。箱ティッシュはガサガサと音が耳に障るので、彼が買ってきてくれた布製のティッシュケースに、彼が毎度詰め替えてくれていた。 こうして考えると、僕と生活するために、さりげない気づかいをいっぱいしてくれてるんだと、また目頭が熱くなった。 「僕が欲しいって、いつでも居るじゃないですか……」 「もっと深いところまでぜんぶ、真昼が欲しい」 彼は左目を抉るようにつかむ。事故で失ったというそこには、傷痕しかないのだが。 「他の奴にこの傷を触られると、ムシャクシャするんだけど、真昼のはそうじゃなかった。もっと触って欲しいって、なったんだよな」 誰にも気安く触らせてこなかったという、その傷痕を夜一さんは最近よく、触れて欲しいと僕にねだる。痛みはないはずなのに、そこはまだ痛むらしく、僕に触れてもらうと、痛みが和らぐらしいのだ。 「俺、家族は居るけど、みんないつか離れていくから、道連れにするにはちょっとなって」 「僕は夜一さんの道連れにはなりたくないです」 夜一さんは悲しそうな目をした。でも、僕はそういう存在になりたくなかったから。両親の悲劇を二度と繰り返したくない僕は、そんな資格に値する人間じゃないかもしれないけど、次の言葉を口にしないではいられなかった。 「夜一さんのとなりを一緒に歩きたい……じゃダメですか?」 夜一さんの右目が一瞬泳いだ。 「この目の傷。俺の心まで深く蝕んでるんだけどさ、治すには途方もない時間が必要で。俺だけの問題じゃないから、どうにもできないし」 「でも、僕が夜一さんを治せないからって、となりを歩いちゃいけない理由にはならないですよね?」 「俺は話さないでこのままでも、気にならないけど、真昼はそうは思わないだろ? 真昼って尽くすタイプだから、相手のこと、どうにかして救ってあげたいって思っちゃうじゃん」 「夜一さんのとのこともまだこれからなのに、過去まで頭が追いつかないですって」 傷痕をぐしゃりと彼は握りつぶそうとする。顔が悲痛に歪んでいた。 「俺自身は過去の傷でできてるからさ、空っぽなんだよ。中身ないんだ、俺って。ユーレイみたいな感じ」 痛みを押し殺そうとする彼の手に、僕はそっと自分の手をかさねた。 「分かりました。夜一さんのこれからを一緒に作っていきたい、でいいですよね」 「あ〜、もう。かなわないなあ」 夜一さんは僕の手を包み込むように、右手をかさねる。 「ほんと、真昼好き、そういうところ、たまんなく、好き」 癒えないトラウマを僕たちは一人で抱えすぎなくてもいいのだ。新しいプレゼントの形を僕たち二人で作っていくのも、いいんじゃないかな。 ほおつきよ 本編その後ss「二人で歩むこれからをあなたに」 著者:内山 優 公開日:2021年9月11日 この物語はフィクションです。 転載・アップロード・私的利用以外の複製は厳禁
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管理者:内山 優
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